かん子の連載

たとえば……。

たとえば……。
OL(これも死語かね?)になると、毎日これをしてくれ、あれをしてくれ、と仕事が降ってくる。
やりかたも教えてもらえる。
で、一応は一生懸命やるので、いわれた仕事はできた、と思う。
それがホントはできていなかった……まわりの人が黙って尻拭いをしてくれていたのだ、ということがわかるのには三年かかる。
つまり、ホントに仕事ができるようになって、ようやく、あのときはできていなかったのだ、ということがわかるのである。
いまの編集さんを見ていると、その一年目のまま10年きているような気がする。
自分は仕事ができていると思っているから自信満々で、できてないよ、というと怒ってしまう。
できてます!
といいはるのである。
できてないからいってるのに~。
できてたら、わざわざいわないのに~。
他人が、できてないよ、という、というのはよっぽどのことである。
それまでかなりのことを堪え忍んできて、これはやっぱりいったほうがいいな、にいくまで、日本人は時間がかかるものだ。
だからいわれた、ということは、相当ひどいんだよ、ということで、かつ、かなり親切だ、ということなのに。
それがそういう態度で来られると、もう言う気もしない、になって誰もなにもいってくれなくなる。
ましてや、編集は職人芸だから、誰が、自分がコツコツ得てきた技を教えるよ、になる。
みんなライバルなのにさ。
それで10年仕事ができちゃう、給料もらえちゃう、という会社も問題なんだけど。

編集者が本を作れない、というのは、パン屋がパンを作れない、というのと同じだ。
パンがまずかったら、売れないに決まっている。
いま、本業界が苦戦しているのは、もちろん世の中が変わった、というのも大きいが、根本的にそもそも本を作れなくなっているからだ。
面白くなければそりゃ、売れないでしょうよ。

でも先日うちに来た22歳の女子大生が、自分のまわりでヒラのOLを目指している人は一人もいない、という話をしてくれた。
みんな、大手の総合職、を狙うのだそうだ。
なぜか……。

もし、離婚したら……。
一人で子どもを養えるだけの金が稼げなくては話にならない、と思うのだそうである。
結婚もしてないのに!
子どももいないのに!
もう離婚の話ですか?!

でもそれは充分すぎるくらいあり得る話だ。

男たちのなかで、誰が、もし自分が離婚したら、とか、妻と死別したら、子どもを育てられるだろうか、などと考えるだろう?
それだって充分ありえる話なのに。

10年くらい前は、総合職にしてやる、といわれてもみんなしり込みしたものだ。
そんなに頑張りたくな~い、とか、寿退職、なんて言葉もあった時代だ。
結婚したら、養ってもらえると思っていたのだ。
まわりのフォローもなかった。
ダンナのほうが育休をとるとか、あり得なかった。
総合職なんかうっかりなっちゃって、子どもが熱を出したら本当に、絶望的にどうしようもなかった。

なのにいまは初めから総合職を目指す、というのだ。
有能に働き、上を目指す?

ということは、来年辺りからまた、期待できる時代がくるかもしれないということだ。
彼らは使えない10歳上の上司は内心切り捨て、自分で勉強し、聞きまわり、頑張るだろう。

願わくばその風が、出版界にも吹きますように……。
まともに本が作れる人たちが、編集者になってくれますように……。
新しい世界にしなやかに適応するシステムを作り出しますようにーー。
まだ若干は、ちゃんと仕事できる人たちも生き残っていることはいるよ。
みんな、ゼイゼイいってるけどさ。
探して、見つけて、頼って!