かん子の連載

私の恩師シリーズ 3 <犬飼先生その三>

人に、この人は変!
と思わせるポイントの一つは、異常に高い集中力ではないか、と思う。
集中力が高いことは、一応いいこと、だと思われているが、集中力の高さは子どものものなので、いい年した大人が集中力が高いと、うさんくさく思われるのではないか……というのが大きくなっていく途中で私が得た結論だった。
なにせみんな、あんたは変!とはいうが、どこがどう変かは、うまくいえないんだけど……と逃げられてしまうので、自分なりにあれこれどこが変なのか考えたのである。

そうして犬飼先生はとてもとても。とてつもなく集中力の高いかたであった。

私も集中力は高いほうだが、上には上がいる、というのはこういうことなのかぁ、と思えるほど、先生は集中力にすぐれていたのである。

あるときなどは例のごとく山のなかに入っていって木の橋から橋ごと川へ落ちた……。
落ちたっ???

聞いていた私たちは異口同音に叫んだ。
なんでも小さな、車一台がやっと通れるくらいの古い木の橋で、大丈夫、と思って渡ったところ、車の重みでずぼっと落ちたのだそうだ。
だが先生が言いたかったのはそこではなかった。
次の瞬間先生はうっとりとこう、いったのである。
「イワナがいたのよ」
😅
落ちたところは浅い川で、瞬間は大変だ、と思ったらしいがドアの縁より下にしか水は来ない……とわかったところへ魚が通った。
その瞬間なにもかも忘れて、窓をあけて釣り始めたのだそうなーー。

そんな~っ?!

と私たちは叫んだが、先生は
だって、魚がいたのよ!
と言い張る。

そのまま何時間か釣っていたそうだが、この釣り紀行は

どうしたんだ?
落ちたのか?

という声が降ってきておしまいになった。

よかったですねぇ、という声に先生は
山のなかには人はいないように見えてもたくさんいる……。
いつかは助けてもらえるのよ……。

そんな、はた迷惑な‼
確信犯かいっ!

と叫ぶ私たちに、先生は
だからいつもタバコをカートンで持っているのだ、と力説した。

タバコあげるからいいってわけじゃないでしょう?!

と叫ぶ声を聞きながら、うーん、先生といると私は素晴らしく常識的なひとになれる……。
なーんて、居心地がいいんだろう、と思うのだった。