かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 0 ご挨拶

0 ご挨拶

還暦祝いの原稿を書いてくださったみなみなさま、まことにありがとうございました。
こちらはまったく覚えがないことも多く、へー、そんなこともあったのか……と思うこともしばしば……。
それに私のことだけではなく、みなさん、ご自分のこの30年を振り返られたりしたかたも結構いらっしゃって、この企画はなかなかよかったのではないかと自画自賛しております。

去年から今年にかけて、世界は大変動いたしました。
アメリカは建国以来の理想をついにかなぐり捨て、アメリカではなくなりました。自由の女神が片手に持っている、迫害された民は私のもとへ、というアメリカンドリーム、を否定したのですから……。
ある意味、200年をへて、これでようやくアメリカは理想に燃える青年期から大人になったのかもしれません。
でも、いくら大人になったからといって、それが無法者じゃあねぇ…。
大人になった甲斐があるの?
ってなもんですよ。
これからのアメリカの目標は、優れた大人になるにはどうすればよいのか……に、なるの?
あおりをくらって、フランスでは極右が台頭してきています。今年の大統領選挙が恐いよ~😅。
フランスが極右になったらドイツもヤバい!
そうしたらオーストリアも巻き込まれるでしょう。
いまだって半々のバランスを危うく保ってるのですから。
もういまは戦後……ではなく、戦前です。

日常生活にも、もうパソコンどころではない、AIや自動操縦の車が暮らしに入ってこようとしています。
いまの小学生にとってはいつか火星で暮らす、はSFではなく、現実の夢です。

昭和は本当に終わったのです。

1960年代、70年代……。
東には東京創元推理文庫があり、西には早川ミステリがあり、北には岩波の“ドリトル先生”やリンドグレンやアーサー・ランサムが、南には講談社や偕成社や学研や評論社のシリーズがあり、真ん中には手塚治虫をはじめ、萩尾望都、美内すずえ、山岸凉子、とマンガも百花繚乱で、出る本出る本、みんな面白い、という文学黄金期には、読む本に困る、などということはありえませんでした。

読んでも読んでも、涸れない魔法の泉のように、あとからあとから面白い本がいくらでも湧き出てくる、あの時代に遭遇できたことはたいそう幸運だったと思っています。

でもそれはすでに50年も前の過去のまぼろしです。
アメリカのカニグズバーグが「クローディアの秘密」をひっさげて華々しく登場してきたのは1967年なのですからーー。
今年は2017年なのですから、それはもう本当に半世紀も前のことなのです。

それは過ぎ去ってしまい、二度と戻ってこない夢です。
当時の本を当時のようには、いまの私でも読めません。
今の50代だって、エノケンがねぇ、ロッパがねぇ、六代目がねぇ、志ん生がねぇ、といわれても困るでしょう。
それは懐かしい幸福な記憶ですが、いまの子どもたちには追憶のしようがないのです。

今の子どもはこれからの時代を生きなければならないのです。

そうしてそれは年寄りだって同じです。
みんな、同じ日本丸に乗って航海していて同じ方向に進んでいるのです。
そうして途中で降りることもできはしない……。

もう過去にとらわれるのはやめましょう。
いま、目の前にいる子どもたちを見て、彼らのために、今の自分が、なにができるかを考えましょう。

過去を振り返るのは必要なことですが、それは“より良い未来を作るため”の作業であり、過去を懐かしんだり、ましてや若い人たちをその世界に引っ張りこむためではありません。

今日から毎日一つずつ、みなさんからのお便りを載せて参りますが、一人一つ、などとケチなことは言いませんので、あれ、あの話、誰も書いてないな、というものがございましたら、またどんどん書いて送ってください。
ストックがある限り、載せ続けようと思います。

では、お楽しみくださいませ。