かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 3 信用できる人

3 信用できる人  by katoyama

17年のお付き合いので、かん子さんには本当にいろいろ教わった。
真っ先に思い浮かぶエピソードを一つ。
近所に新しい保育園ができた時、知り合いだった園長から
「子どもたちが落ち着くまで、とりあえず毎日読み聞かせに来てほしい」
という依頼があった。
時間帯は、3時から30分間……。
第一日目、絵本コーナーに集められたのは20名ほどの2,3歳児。
初めての読み聞かせの現場は、泣く子、騒ぐ子、立ったままの子、けんかを始める子で落ち着かないし、言葉はかき消されるし、もう散々……。
やっと、定番の本を二冊読んだ所で立ち往生し、5分位で止めざるを得なくなった。
無理に、にっこり笑って
「絵本読み、やめてもいーかい?」
と聞いたら、それまで、うるさくしていて全然聞いていなかった子たちが、その時だけ見事に声を合わせて、思いっきり
「いーよー」
と言った。
それまでも他の保育園でけっこう読んできた私のプライドはズタズタ……。
次の日、私の姿を認めると、子どもたちはすぐに寄ってきて
「また来たの?何しに来たの?」と言う。
「絵本読みに来たんだよ、聞く?」
と尋ねると
「いいよ、聞いても」
という返事。
そして、二回目の読み聞かせは、昨日の子たちと同じ子?と疑いたくなるほどの落ち着きぶり。
私は拍子抜けしつつも、失敗しないうちにと、そそくさと15分で切り上げた。
翌日からは、順調に時間を伸ばし、一週間後には、あっけないくらい、他の園の子と同じくらい聞けるようになった。
と思ったら、園長から
「一か月毎日って言いましたが、思ったより子どもが早く落ち着いたので、一カ月に一度でお願いします」
と言われた。
そのことがあって、かん子さんに
「一週間で子どもたちを変える絵本の力ってすごいね!」
という話をしたら、いきなり
「絵本にはそんな力はないよ」
と言われた。
「それは、あなたが、やめていいよ、といわれたときにちゃんとすぐやめたからさ。子どもは一発で、この人は自分たちのいうことをきちんと聞いてくれる信用できる人だって判断したんだよ。だからその人の読んでくれる本も聞いてあげようって気になったのさ」
衝撃の言葉だった。
このことがなかったら、今の私と仕事はなかったと思う。