かん子の連載

何度か書いたことがあるが、

何度か書いたことがあるが、私の時代、法政大学英文学部の重鎮は荒正人教授で、一つは彼の講義を楽しみに入学したのである。
ところが、英米文学概論は240名ほどの大教室で、先生は毎回毎回
“私の好きな花”
“私の好きな車”
“私の好きななんとか”
という(私の好きなシリーズ、と呼ばれていた)A4一枚の文章を書かせるだけなのだ……。
それも、日本語で!?
英語で、でもなく!

?????

いったいこれは何なの?
なにがやりたいの?

そして90分の授業はそのレポートの名前を呼んで返すだけなのである。
なにせ240名ですから90分かかるわけですよ。

ところが……。

なんでこんな簡単なことを……と思いながら書いていると
「赤木さん、どうやって書いたらいいの?」
と聞かれたのである。
???
好きに書けばいいんじゃないでしょうか……
と思うのに、まわりは本当に困っていた……らしい。

そのときは、なぜそんな簡単なことができないのか、本当にわからなかったので、うまく説明することができなかった。
ごめんよ、みんな……。

40年もたって、長崎大の生徒を前に、いま私はしみじみと荒先生の気持ちに思いを馳せている。
この子たちを文章書けるようにするために、どういう訓練をしたらいいのだろう、と途方にくれる。

あれは長い教授生活で編み出した、荒さんなりの、自我を育てる授業であったのだなぁ……と思う。
それなくして自我のかたまりの英米文学概論やったってしょーがないだろーが……という、先生の呟きが聞こえてくるようだ。

そして少人数の授業のほうは「嵐が丘」を原文で毎回40ページ進む、という荒わざの授業で、これまた参加できないのであった……。