かん子の連載

LGBTQの本棚から 第1回 あなたの周りの見えない「誰そ彼」

今日紹介するのは「しまなみ誰そ彼」という漫画です。

書店に並ぶたくさんの本の中でこの漫画の帯の文が心に響きました。
1巻が
『「お前ホモなの?」 その言葉に僕が、死んだ。』
2巻が
『「女装をする、僕」は何者なのか、僕にもわからない。』
なかなかにセンセーショナルですよね。

そんな帯からもわかるように、この漫画はLGBTをテーマにしています。
LGBTという言葉をご存知ですか?
「L(レズビアン),G(ゲイ),B(バイセクシャル),T(トランスジェンダー)」の各頭文字をとった、セクシャルマイノリティー(性的少数者)を表す言葉です。
僕もLGBTの当事者で、T(トランスジェンダー)にあたります。

「談話室」という誰でも好きな時に好きなだけ利用できるスペースを舞台に、様々なセクシャリティの登場人物がぶつかったり、支え合ったり、助け合ったりする物語ですが、そんな内容のマンガを描くだけでも難しいのに、このマンガがすごいのは
「セクシャルマイノリティの心情がありありと描かれている」
ところです。
マジョリティ(異性愛者)にはわからない、マイノリティの葛藤・苦しみ・悲しみ……思わず涙してしまう場面もありました。

LGBTの人は(LGBTだけでは区分できないのですが、ここの話はまた今度……)少なからずどこかで悩んだりした経験があると思います。
もちろん何も悩まなかったという人もいないわけではないですが……。
”普通”に生きていくために自分を殺してきた人もいれば、自分に正直に生きてきた人もいます。
どうしようもない気持ちを怒りにして表現したこともあるでしょうし、世界に一人取り残されたような孤独感を味わったこともあるでしょう。
そんな気持ちが鮮明に描かれているんです。

例えば冒頭のシーンで主人公が「お前、”そうなん”?」とクラスメイトにカマホモ疑惑をかけられ、それに対して「バカじゃねーの ホモなんて。」「きもいわそんなの。」と自ら否定する言葉を発します。
ここまであからさまに指摘されることはなくても、自分のことを隠すためにわざと自分を否定する言葉を言わなければならないシーンに出くわしてしまうことは意外とあります。
LGBTであることを知られることは、当事者にとっては大きなリスクです。それを避けるために自らを否定する言葉を発することで、心を傷つけ、時には殺してしまうこともあるんです。
※オカマ・ホモといった言葉は差別用語なので言わないようにしてくださいね

自分の性的指向に悩んでいる人にも、LGBTの人にも、そうしてそれ以外の人にも、色々な立場の人に読んでもらいたい1冊です。

最初のあたりではマジョリティの中でのマイノリティの存在が問題になりますが、もちろんマジョリティのなかだけで問題が起きるわけではありません。
当事者同士、カミングアウト(自分から他者に自分の性的指向等について伝えること)済みの理解者との間でも様々なトラブルが起きます。

同じセクシャルマイノリティでもわかりあえるところとそうでないところがあります。これは皆さんも同じですよね?

2巻では女装男子(セクシャリティは未確定)の子のために主人公が奔走しますが、善意での行為が相手を傷つけてしまいます。相手のことを思って、相手のことを理解しようとしてもすれ違ってしまうのは、マイノリティもマジョリティも関係ないんです。

うーん。
あとわかりやすいのは、本人の許可なくその人の性的指向等を他人に伝えてしまう
「アウティング」
という行為でしょうか?
最近だと、俳優の成宮寛貴さんがアウティングの被害にあっていましたね。
些細なことに思うかもしれませんが、本人にとっては死んでしまおうと思うほどのショックを受けかねない行為なのでこれは絶対にしないでください。
実際去年、アウティングされて弁護士志望の男性が自殺してしまった事件もありました。

カミングアウトはある意味で信頼の証ですから、カミングアウトされたら、せめて否定だけはしない、そうして他の人には言わない、であげてください。

あまり内容を書いてしまうと読む楽しみがなくなってしまうのでこのあたりで締めます!

一読の価値のあるマンガだと胸を張ってオススメできる作品なのでぜひ読んでみてください。

2017年04月18日