かん子の連載

LGBTQの本棚から 第3回 友情と愛を描いた、優しさの物語

今回紹介するのは小説「スヌスムムリクの恋人」(著/野島伸司)……。
LGBTQ(Qとはクエスチョニングの頭文字……LGBTに入らないその他のことです)の中でもT(トランスジェンダー)を題材にしたお話になります。
日本語では「性同一性障害」という訳語になってますね。

物語は4人の幼馴染みを中心に展開されていきます。
同じ年に生まれた4人の男の子のうち、最後に生まれた望(以下ノノ)だけが他の3人とは違っていました。
女の子のようなか可愛らしい外見をしたノノは、心も女の子だったんです。

この本のあらすじの最後の文は
「四人の男子が繰り広げる究極の友情&ラブ・ストーリー」

特に紹介したい部分をいくつかあげていきます!

4人が高校生になった頃、ノノに彼女ができたのですが、その彼女から他の3人の元へ相談が舞い込みます。
ノノが彼女との性行為のあと、必要以上に体を洗うというのです。
皮膚に血がにじむほどこすり、手を擦り切れるほど何度も洗い、口を何度も何度もすすぐ…。
時にはトイレに駆け込んで吐いてしまうこともあるらしい…。

ノノは自分の心が女性であることを認められず、男としてふるまおうと必死になっていたわけです……。

LGBTQの中には自分の性自認(性別のアイデンティティ)や性的指向(どの性別を恋愛・性愛対象にするかという傾向を表す言葉)について悩んだとき
「恋をしていないから」
「恋愛を知らないから」
「肉体関係をもったことがないから」
……悩んでいるんだと思い、自分の気持ちとは違う(時には真逆の)相手とつきあってしまうことがあるのです。
そうすることではっきりと自分の性自認や性的指向を自覚できるようになることもありますが、大きく傷ついてしまうこともあります。
ノノは傷ついてしまった……。
これは僕にも経験があります。
それまでもずっとモヤモヤしたものを抱えていたのですが、初めて彼氏ができたときに、ようやく
「自分の心は男なんだ」
と確信したのです。
当然、相手は僕を女の子だと思っていたわけですから……。

なんやかやあって、仲間はノノが女の子であることを納得し、ノノにナオキ(幼馴染みのうちの一人)が性転換手術を提案……。
「ノノ、君は女の子になるんだよ」
「ノノ、手術を受けて、女の子になろう」
「君は男の子の心になろうと努力した。だけどそれは間違いだったんだ。身体に心を合わせようとするのは逆だったんだ。心に身体を合わせるべきだったんだよ」
ナオキの言葉は、ノノがずっと待っていた言葉でした。

トランスジェンダーの人々に対して「身体に心を合わせろ」という人がいます。
でもそれは難しい(というよりも不可能?)で、無理やり身体の性に心を合わせると、混乱し、傷つくことになってしまいます。
だって、あしたから女だと思え、男だと思え、といわれて、あなた、できますか?
頭のなかは変えられません。
簡単に
「身体に心を合わせろ」
なんていったら、いま苦しんでいる相手をもっと苦しめることになります。
ほとんどの人はもうそれまでに(今まで十分に)身体に心を合わせようと努力してきて、限界になったから苦しんでいるのですから……。

次はノノが不登校になる場面……。
不登校になった理由は
「詰め襟を着たくない」
からです。

制服はトランスジェンダーにとって大きな問題の一つです。
制服を着ることを拒否したり、いつもジャージでいたりしたトランスの人もいるのではないでしょうか?
たかが制服と思うかもしれませんが、考えてみてください。
もしあなたがたとえば男だとしたら、毎日セーラー服にスカートをはいて外を歩け、といわれたら嫌じゃないですか?
特に他人にどう見られるかに敏感になっている中学生や高校生のときなら……。

日本の制服は自分の性自認を明確にしろ、と毎日迫ってくる道具なのです。

ノノの不登校を受けて、幼馴染み3人は大胆な行動にでます。

なにをしたか、は読んでみてのお楽しみ!

最後はノノが性転換手術を受けた後の場面……。
念願の手術が成功したにも関わらず、ノノは毎晩悪夢を見て発作を起こすようになってしまいます。
そんなノノのもとを訪れ、ナオキはこう言いました。
「ノノ、その悪夢を終わらせる呪文があるよ」
「呪文?」
「ああ、呪文さ。間違いなく効き目がある」
「…………」
「だって君は、手術が終わったにもかかわらず、相変わらず自分のことをボクっていってるじゃないか」
「…………」
「言ってごらん。わたしって……」

魔法の呪文とナオキのある行動のおかげでノノは発作を起こさなくなり、幸せになることができました。

一人称というのも意外とひっかかるもので、日本語の一人称では、性別によってだいたい使うものが決まっていますよね(英語は“I”だけしかないので、それだけでは男女の区別はつかない言語ですが)。
そのあたりも理解しているのがこの小説のすごいところだと思います。

このほかに僕が個人的に好きなのが
「ノノ、君がとても優しい女の子だからさ」
「圧倒的なレベルの、優しい女の子なんだ」
というナオキのセリフです。
なんというかこのお話は、このセリフがすべてを表しているような気がするんですね。
優しい優しいお話なので、セクシャルマイノリティ等関係なく、素敵な小説として楽しめると思います。

小説だと図書館に入れるときのハードルもグンと下がると思うので、ぜひ学校図書館関係者の方はいれてください。
図書館にいれるハードルが下がるということは、借りるときのハードルも下がるということなので!

この本は、トランスジェンダーの当事者が驚くほど、トランスジェンダーを理解している内容になっています。
彼らの気持ちを少しでも知りたいという方にもおすすめしたいと思います!