かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 43 たくさんの「初めて知ったこと」

たくさんの「初めて知ったこと」   by 武田

依存症やAC・人間関係などをテーマにした季刊『Be!』での連載
《赤木かん子の「児童文学は心の傷を読み解く宝庫だ!」》
を担当した、副編集長の武田です。
この連載は2008年冬に始まり、16年春まで30回の長期に及びました。
それだけ長かったので、学んだことは限りないのですが、順不同に
思いつくまま挙げてみます。

●集合体としての文学

文学史、という考え方はもちろん知っていましたが、もっと生の形で、
文学とは一人一人が書いているようでいて、実はそうじゃないかもしれない、
みんなで作っていく流れなんだ――ということを連載の中で知りました。

たとえば「離婚」「子どもの虐待」などの命題が立てられ、
それを書き手が次々とよってたかって解明していく、
一段落すると次のテーマが掘り出される、
といったような。

マンガや映画も含めて、大きな意味での「時代と文学」を絵巻物にして
見せてもらった気がします。

●文学はどんどん古典になっていく

たしか連載の初めの頃に電話でやりとりしていて聞いたと思うのですが、
とても印象に残っている言葉があります。
「ケータイ以前の小説はもはや古典。ケータイ以後の世代にはすでに
意味がわからない」
そこまでいう?? と思ったのですが、すぐに、ああ~その通りだなと
まざまざ実感した記憶があります。

そして今やスマホとSNSが出てこない小説は古典かもしれない。
フィクションの道具立てが、こんなに次々変化し、古くなっていく時代って
あったでしょうか。

●本はフィクションだけじゃなかった

トークセッションを聞きに出かけて、予想した10倍ぐらい話がおもしろく、
ひきこまれました。中でも、こんな話です。

「昭和30~50年代は文学が全盛だった。この時代に育った人は、本=文学と
思っている。でも、フィクションは本の中のごく限られた分野。
たいていの本はリアル系。子どもたちもリアル系を好む」

ええええー
と、まさに昭和30年代生まれの元・文学少女は驚きました。

●初めてのマンガ喫茶!
《ここのみ、記録があったため体験編です》

連載は途中から「マンガ編」に移っていったのですが、少女漫画は
それなりに読み込んでいた私も、少年漫画、しかも長大な連載もの
となると、お手上げです。
まさか全巻を経費で購入するわけにいきません。
(ささやかな編集部経費が尽きてしまいます)
自費購入? 
(私の財源と自宅の本棚スペースが尽きてしまいます)
どこまで読んでおけば、編集者の職務を全うできるか。
いつもギリギリの按配に悩んでおりました。
そこへ『ドラゴンボール』です。
「読んでね」とかん子さんから指令。
いくらなんでも多すぎます!!!
「じゃあ、ベジータが登場するところは読んで」
男性スタッフに調べてもらったら、それでもとんでもなく多い!!

「まんが喫茶にいけばあるよ」
かん子さんからメール。

一人で行く勇気が出せず、娘に連れて行ってもらいました。
受付に付き添ってもらい、目的の漫画を探してもらい、
個室スペースの電気をつけてもらい、
「わかった? 一人でできる? じゃあがんばってね」
娘は帰っていきました。

机とパソコンとイスだけがギリギリ入った個室で、
ひたすら読みつつメモを取り、お昼を食べ、夕食も食べ、
お代わり自由の飲み物をとりにいったり、トイレに行ったり。
夜10時すぎ、やっと予定分を読了し、清算しようとしたら、
カウンターが列になっていました。
帰る人ではありません。
これから利用する人たちなのです。
泊まるんですね……?

狭い世界に生きてきた自分に気づきました。
あの小さなスペースを棲家とするような毎日を想像すると
くらっときますが、本来の用途としては、意外と私、
こんな空間も好きかも~と思ってしまいました。

※なお、『ドラゴンボール』はそれほどぴんとこなかった
のですが、『ヒカルの碁』は夢中になって読みました。

●編集者の仕事とは何か

長年を通じて一番勉強になったのはこれかもしれません。
学生時代からライターの仕事を始め、その時代が長く、
初めて編集者となったのは専門誌……つまり、たいていは
職業的に文章を書く人ではなく、各専門分野の人が書いた文章を
「編集する」といういわばアンカー的な役目も大きかった私です。

ですから、本当の意味で「編集者」として仕事をしたのは
かん子さんとが初めてだった気がします。
何をすべきか、何をするとよりよいのか、何はすべきでないか、
毎回探りながらの作業でした。

筆者が書きたい気持ちになるテーマを一緒に考える。
テーマ設定で読者との間をつなぐ。
筆者の原稿が仕上がるまで伴走者となる。
できれば原稿のデータ的な部分(事実関係)のウラをとる。
スペースとタイトルと小見出しとレイアウトを提案する。
筆者の立てた筋を変更しない。
筆者の文章の息遣いをいじらない。
疑問があるときはとことん相談する。

……なあんて、
今思えば当たり前!!!
のことなのですが、
なかなかそれがわからず、ものすごく面倒をかけたと思います。
長いこと、ありがとうございました!

これを見ている方、興味があったらぜひ季刊『Be!』を
www.a-h-c.jp/items/be

連載の最終回はこちらです。

季刊〔ビィ〕Be!122号……特集/パチンコ依存の処方箋


(ああ、もう一年たつんですね)