かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 45 本が詰まってる人

本が詰まってる人   by 浦川禎子

レイ・ブラッドベリの「華氏451度」に、本を丸ごと暗記する人々が出てくる。紙としての本がなくなっても口述として本が残るように。
そしてごく稀に
「これ、丸暗記して「本」になりたいよなー」
と思う本がある。

あるけど、できない。
やらない。
せいぜいフレーズが残るくらい。
そこへいくと、かん子さんという人は、本のエッセンスが辞書のように詰まってる人だ。

初めて会った御茶ノ水の児童書専門店で、当時、店番だったかん子さんは「本の探偵をしている」と言った。宇宙船からおっこちて星に帰りたいという女の子の話を探してると言うと、たちどころに「星から来た少女」と題名が出た。
知識も記憶力もすごい。
でもしばらくしてわかった。本当にすごいのは「この本の中の人たちはなにが言いたいのか」汲み取る能力だということ。
そして最近は、本の中の人だけでなく、本に関わる人、さらには、なんか困ってる人まで汲み取ってるように見える。

知り合って30年、かん子さんは本の探偵から児童文学評論家へ、いつの間にやら、学校図書館を片付けて回るようになり、この前は
「ボイスが、身体にいいっ!」
と力説された。
ヤングアダルトについて20ページくらい延々と語ってた人から、よもや「最近の恐竜事情」について教わろうとは思ってなかったよ。それもこれも「依頼の底にあるものに思いを至らせてたら、どんどんやることが増えていった」ということだろう。そしてたぶん本人は「仕事だから、しょーがないじゃん」と、ぶつくさ言うだろう。
さて、元々は「みなさんに、これまで私が話したことで役に立ったとか、楽になった、というような言葉とエピソードを書いてもらおうと思いつきました」という依頼なので「なにか役に立った」ことを書かなくちゃいけないのですが、思いつきません。
分けていただいた「紅まどんな」がとんでもなくおいしかった、とか「せんねん灸」は周りに勧めまくってるとか「てーちゃんそっくりの頑固者が出てくる」と言って貸してもらった漫画が、確かに仰るとおりですよ、とか、個人的な細かいことならいくらでも出てくるけど。

「かん子さんは、本が詰まってるという、その存在自体がものすごく役に立ってるよ!」というか「あー、調子悪いー」とぶうぶう呟いてるだけでいい、というか、つまりそういうことで、やっぱり「還暦おめでとうございます」と申し上げます。

(浦川禎子・高校生時分に偶然かん子さんと会って以来、同人誌「烏賊」や径書房「魔女の寄せなべ」などに関わる。四ツ谷の事務所で時折片付け担当。あきる野は…遠いなあ)