かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 67 みもとに

みもとに   by 市立須坂図書館 文平玲子

かん子先生、還暦、おめでとうございます!
いちばん新しい「LLブック」には、「としょかんとつくるひと」なんてプロフィールを掲載しておられますが、私にとって、かん子先生は、今でも&いつでも偉大な「子どもの本の探偵さん」です。白状いたしますと、実は私、ず~っと長いこと本の探偵さんの「追っかけ」(愛読者)をやっておりました。

かん子先生の処女作『こちら本の探偵です』(失礼いたしました、本当のデビュー作は別冊「烏賊」でしたね)を手に取ったのは、児童書の編集者として駆け出したばかりのころ。小学校の図書館で出会った1冊の本をきっかけに、「大好きな本を分かち合いたい」という思いから、「本」の仕事をするのが夢になり、大学では英米の児童文学を勉強し、司書の資格も取りました。

卒論は、「小さなエリザベス・グージ論」です。マザー・グースやクマのプーさんなど、みんなが有名な作品で卒論を書く中で、だれも知らないエリザベス・グージを選んでずいぶん心配されましたが、小学校の図書館で出会った『まぼろしの白馬』の原書を求めてイギリスに渡り、物語の舞台、ウエスト・カントリーをさまよった旅の記録をとおして、この作品を、ひとりでも多くのひとに紹介したいと思ったのです。

ロンドンの書店で、やっと、みつけた『まぼろしの白馬』の原書。うれしくて、うれしくて、手放せなくて、肌身離さず持ち歩いていたら、帰りの飛行機の中でなくしてしまうという、おみやげつき、いえ、おみやげ「なし」でした。まさに「まぼろし...」などとからかわれましたが、当時はまだアマゾンなどの、便利な通販はありませんでしたから、人づてに急いで原書を送ってもらい、なんとか卒論を提出しました。

はじまりは書名の読み違えです。小学校3年生の私は、背表紙の修繕テープに書かれた「白馬」を、うっかり「白鳥」と思いこんで借りて帰り、家で取り出して、がっかり!ところが、びっくり!古い領主の館にひきとられたマリアが、その村にまつわる伝説にまきこまれ謎を解いてゆく、かん子先生おっしゃるところの「ロマンチックのきわめつけ」なのですが、おもしろくて&おもしろくて、一晩で読んでしまいました。
この本の、なにが私を魅了したのか。そして、今でも捕えて離さないのは、なぜなのか。正直申しあげて、わかりません。だって、おもしろいんだもん。おもしろいので、「だれかに教えてあげたい」と思った。でも、どうしたら教えてあげられるのかわからなかった私は、この本を返すとき、自分のいちばん好きなさし絵のページに(本についている、ひもの)しおりをはさんで返す方法を思いついたんです。

つぎの日、図書館に行く。書架を見る。本が、ある。だれも借りていない。そのつぎの日、図書館に行く。書架を見る。本が、ある。まだ、だれも借りていない。かわいそう!こんなにおもしろいのに、だれも借りてくれなかったら、どうしよう! 子ども心に心配したものです。また、図書館に行く。本が、ない。「あっ、だれかが読んでいる!」また、図書館に行く。「あっ、本がもどってきた!」

そうなると、すぐ、本を開いて、しおりの位置を確かめます。しおりの位置が変わっていなければ、「おもしろくなくて返しちゃったのかな?」しおりの位置が動いていれば、「あっ、ここまで読んだんだ! このひとの好きなページはここなんだ!」などと、自分勝手なメッセージのやり取りをしていたのです。(私のお気に入りは、105ページの、マーマデュークの台所です。富山妙子先生のさし絵がすばらしかった......)

それまで「ひとりばっち」だと思っていた私は、かんこ先生の本を読んで驚きました。何人ものかたがたが『まぼろしの白馬』を求めて、探偵を依頼してきたというのです。と、同時に、「わたくしの仕事は児童文学、つまり子どもの本であります」と言い放つ、この探偵さん、すごいな~、いつかお会いしたいな~、いっしょにお仕事したいな~と願いつつ、片っぱしから著書を読ませていただいてきたのでした。

『この本読んだ? おぼえてる?』や一連の『本の探偵事典』も楽しませていただきましたが、おすすめは「図書館員のカキノタネ」シリーズです。図書館流通センターの「週刊新刊全点案内」に連載されたものだったそうですが、当時、出版社を卒業して、翻訳&子育てでぐちゃぐちゃになっていた私は、かん子先生が、つぎつぎ投げてくださるカキノタネを、涙をこぼしながら、むさぼり食っておりました。

かん子先生のご本って、決まって「いつかどこかで会えるといいですね」とか「では」でしめくくられていますよね。結核を患って実家に身を寄せた私は、そんなことは夢だとあきらめていました。でも、病気も仕事も子育てもなんとか乗り切って、公募に応じて図書館長になり、「図書館司書講座 講師 赤木かん子氏」というのをみつけたときはもう飛んで行きましたよ~! そして本当にお会いすることができたんです!

かん子先生のご本って、どれも楽しく&おしゃべりしているみたいに書いてくださっているでしょう?「生かん子」(すみません、ついに本物のかん子先生を拝見したということ)で、燃えるような髪をした図書館の魔女のような、その風貌以上に衝撃的だったのは、かん子先生が、ご本と、まったく同じ口調でお話しされたことです。くりかえし&くりかえし読んだ、あの本のまま......まさに「かん語」でした!

けれども、図書館をつくるときの「かん語」は、わかりやすく間をとって、明るいけれど冷静で、厳しいこともジョークを交えて的確に......迫力満点のご指導です!
お忙しいかん子先生に、「ぜひに」とお願いして、昨年2度にわたってご指導いただきました。あたたかい「かん語」のご指導のおかげで、小館も小市の学校も大きく成長することができました。本当にありがとうございました。

かん子先生、もういちど、還暦、おめでとうございます。
「本好きの、ひとはみな、友だちだ」『こちら本の探偵です』にあるこのことば、大好きです・いついつまでもお元気で、私たちのために、なつかしい本や、新しい図書館のかたちをさがしつづけてください。私たちも一生懸命受け止めて、一生懸命追っかけてゆきますから~!