かん子の連載

LGBTQの本棚から 第14回「FtMゲイ」

今回紹介するのは村上春樹の「海辺のカフカ」上下巻です。

この物語は2人の視点から描かれています。
1人は少年カフカ、もう一人は老人ナカタさん……。
そうして少年カフカ側に、大島さんという人が登場するのですが……。

彼はFtMで、ゲイです。

FtMでゲイ…?

FtMは精神は男性……。
ぷらすゲイということは、ボディは女性ですから、女性が男性を好きになる”異性愛”……のように一見、見えます。

えっ?
なら別に問題ないんじゃないの?
と一瞬思ってしまうかもしれませんが、ここで重要なのは
”性自認”

”性的指向”
です。

この二つは似ているようで全く違うものです。

性自認というのは
「自分は女性(男性)だ」と思っている、自己認識のことです。
つまり、精神は、心は、どうだ、と思っているか、なのです(なかにはどっちでもない、という自己認識の人もいます。その人たちは自分を中性と表現します)。
これは自分で好きなように変えられるわけではありません。

もう一つの性的指向というのは
「どの性を恋愛や性欲の対象とするか」
という性傾向のことです。
この性的指向が異性に向けば異性愛、同性に向けば同性愛、男女両方に向けば両性愛…となります。
これまた、自分で自分の思うようにはできません。

なので大島さんは、性自認が男性で性的指向も男性ということになります。

だからFtMゲイ。

ええっ?
そんな人、いるの?
と思うかもしれませんが、実際に存在します。
というか僕自身、FtMゲイです。

ですから、自分がそうだと気づいたときはかなり混乱しました。

「あれ?男になりたいのに男が好きで、ということはゲイだけど、もともとは女だから異性愛になるの??」
と、こんな感じで……(笑)

今回の話を通して知ってもらいたいのは、本当にセクマイは多様ってことです。
別にこれはセクマイに限ったことでもないんですけど、だって異性愛の人でも、背の高い人が好きとか年上の人が好きとか、好みは実にさまざまじゃないですか!

大事なことは、自分はこうあるべき!
と決めつけないで、本当は自分はなにをどう感じているのか、自分に素直にきいてみることではないでしょうか?

だって、それはどう頑張っても取り繕えないものだし、無理して違う衣をまとっても、結局は破けて破綻してしまうのですから……。

村上春樹さんの小説ということで、学校図書館に入れるのは簡単でしょう(中学だったらすでに入っているところも多いかと思います)。
小説の棚にいれておいて、自然にセクマイに触れさせるというのもいいですし、LGBTQの棚に置いて
「こんな有名な人の小説にも出てくるんだよ!」
「全然おかしなことじゃないんだよ!」
とアピールするのもいいかと思います。

とりあえず、この小説にそういう人物が出てくる、ということは知っておいて欲しいです。

文庫版上巻の369ページから、大島さんはカミングアウトするので、LGBTQ的にはそこが見どころ……。

もしお近くに本があったら、ちょっと覗いてみてください。

2017/07/24