かん子の連載

【赤木かん子還暦おめでとう企画】 101 ストーリーテリングと「紫根染め」

ストーリーテリングと「紫根染め」   by うすゆきそう文庫 澤口杜志

 『ストーリーテリング』とは昔話や創作などの物語を覚えて何も見ないで語ることです。
『おはなし』を語るともいいますが……。
人から人へと口承で伝えられた、例えば岩手県遠野の語り部のように、祖父母などから聴いた昔話をそのまま覚えていて語る『伝承の語り』と、物語を本から暗記して語る『現代の語り』があります。
図書館や学校などでの子どもたちのおはなし会は、主に『現代の語り』です。
『グリム童話』もあれば、日本の昔話もあり、様々……。
32年前お会いした時、『カラオケストーリーテリング』にならないように……、と明言を吐かれました。
マイクを持ち熱唱するも、自分だけが気持ちよく、誰も聴いてなくて……というタイプの『カラオケ』と同じように(カラオケでもそうじゃないのもありますが)ストーリーを完璧に覚え、朗々と聴き手に語り、聴き手のことなど考えずに、自分の語りに酔いしれる……。
あぁ、耳が痛い!
そのときに
「語りはね、語る人のキャラクターに合った話をしなくちゃ映えないよ」
ともいわれました。
「洋服だってその人に合うものを着れば素敵になるけれど、合わないものを着たらその服の魅力も着てる人の魅力も伝わらないでしょ」と……。
ということは、自分にあったものを見極める判断力が必要になる訳ですが、かん子さんは、人に話を見立てる名人です。

かん子さんは
「このお話はAさんに、このお話はBさんに……」
というやりかただけでなく
「あなたは白い話ならたいていはできるから。あなたはグリムのなかの色のついた話をして。白はダメ」
というような不思議なアドバイスもしてくれます。
そしてそれがまた、見事なほど本当にはまるのです。
なぜわかるのか、ときいたところ
「だって、見ればわかるでしょう」
といわれました。
わかりませんよ!!

あるとき、いきなり
「賢治の『紫根染めについて』をやってみ?」
といわれました。
『紫紺染について』は宮沢賢治の中では、あまり知られていない作品です。
盛岡の工芸品『紫紺染』(=紫根染)が明治になって廃れたものの、もう一度再生する為に、紫紺染研究会のお役人たちが、純情一途な山男に酒を飲ませて酔っぱらわせて、染めかたの秘法を聞き出そうと悪巧みをするお話です。
話は知っていましたが、それが自分に向いているとも、やってみようとも思ったことはありませんでした。そういわれてちゃんと読み返してみると、確かに、目で読むだけだとこの話の良さは伝わりにくいかもしれない……語りにすれば生き生きする、と思いました。

「この話、好きなんだけど、これは黙読じゃだめでしょう?
だから、ずっと、この話ができる人を探してたんだよ」
とーー。
私のキャラクターと、この山男があっているとのこと……。
確かにやってみると自分でも驚くほどしっくりはまり、聞いてくださったかたにも誉めていただけました。
いまでは私の大事なレパートリーの一つです。
毎年送る、手作り味噌とともに、尊敬してやまないかん子さんに誉めて頂けることがあると、もうニマニマです。

 「人の生身の声には人を癒す力がある。『物語』にもー。語りは人の心を癒して再生してきたの。だからずっと受け継がれてきたんだよ。人は苦しい人生を生きのびるために『物語』を必要とするんだよ」

心して語っていかないと、と思っています。