かん子の連載

水曜日の歌 ♬~ 第十一回

第十一回

軽井沢の氷菓子

わたしは昨夜
白い洗面器の井戸水に
秋をいつぱい掬つた

田中冬二です。
うーん
いかにも冷たそう……。
気が早いですが、秋の歌を選んでみました。

田中冬二は明るくて透明でモダンで、誰にでもわかりやすい詩を書く人で、当時はたいそう人気があったそうですが、みんな知ってる?
その頃も、田中冬二を真似した詩がたくさん書かれたり、これが詩か?
というようなことをいう評論家もいたそうですが、彼の詩はわかりやすいだけじゃないよね。
この明るさと透明感は悲しみを昇華させた上にあるものなんだから。
この詩は実は前があって

秋は
秋はどこから来たのであらう
山から 山ふところから
山国の人の手紙から
秋は袷の着物にゐた
わたしは昨夜
しろい洗面器の井戸水に
秋をいつぱい掬つた

ーー青い夜道ーー

となります。
田中冬二くらい教科書にむく詩はないと思うのに、なんか消されてたよね、田中冬二……。

私はお仲間の春山行夫よりも好きなくらいです。
だから知っておいてね、田中冬二……。

2017/08/23