かん子の連載

図書館のちょっといい話

図書館の本に書き込みをされるのは困る。
かなり、困る。
本を読んでいるときに他人の思考が入ってきちゃうのだから。
でも、世の中には、どうしても本に書き込みをする人がいて、たとえばその代表は文豪、夏目漱石だ。
ただ、漱石の場合はその書き込みのおかげで、その時彼がどんなことを考えていたかがわかるので、漱石研究にはとてもありがたい書き込みなんだけど。
でも図書館の本には……。
困るよね。

で、ある図書館で、書き込みをする年配のお客さまがいたそうな……。
何度、あのう……、とお願いしても、どうしてもやってしまう……。
なので思い余った職員は、こうお願いした。

「すみません。どうしてもお書きになりたいのであれば、鉛筆でお願いできないでしょうか?」

これは了承されて、その後は、鉛筆を消せばいいだけになったそうな。

このとき、居丈高に
書き込みをしないでください!
ということも、もちろんできるだろう。
で、たいていの図書館員はそれしか思いつかないだろうと思う。
自分は正しいことをいったいるのだから。
でも、正しいことがいつも、正しいとは限らない。図書館の人にそう怒られた(と彼が感じたら)このお客さまはかなり傷つくだろうと思う。
それは、思いやりのない態度である。
その年で!
まだ、知りたい、わかりたい、という欲求を持ち、本を読もうとするのは
凄くない?
偉くない?

一般図書館の究極の目的は、町の人々を幸福にすることだ。
本と情報を使って……。

確かに消す手間はかかるけど、ほかの人に迷惑にならずに、このかたを守る方法はないか……と考えて、こういう解決方法を思いついた司書さん……。
あなたは偉い!

お客さまを傷つけないことは、サービス業の一番の根底なのだから……。