鈴木均君が亡くなった。
鈴木均君が亡くなった。
鈴木君は、松本の浅間温泉の老舗旅館の子で、初めて会ったときはまだ高校生だった。
腰から手拭いをぶらさげて、あんたは松本一高生か……と思わずいいたくなる(はい、北杜夫ですよ)ようなスタイルの、30年前でもありえないほど浮世離れした老成した10代で、将来の夢は司書だった。
あのときは何の会だったのか……。
いまでもあの立派な旅館のロビーで、夕焼けの暖かい光のなか、高校生たちが話をしていた夢のようなぼおっとしたワンシーンを、映画のようにくっきりと思い出すことができる。
願いはかなって彼は浦安の図書館に入った。
そのあとほぼ30年近く、一度も会わなかったが、私は彼のことを忘れたことはなかったし、聞いたことはないけど向こうもそう思ってくれていたと思う。
会わなくても話さなくても友だちは友だちで、毎日会っているのと変わらないでいられるものだ。
こまごました手続きを全部自分ですませ、自分の葬式の式次第まで事細かに書き残して、彼は最後まであわてずさわがず、飄々と大きな川を渡っていった。
少し前にお見舞いにいって、一緒に歯医者に行ったが、彼はどこも変わっていなかった。
まるであの日の続きのように、会った瞬間私たちは議論を始めた(松本の人間は噂話をする変わりに議論をする)。
だからまた、しばらく30年ほど会わなくても、なにも変わりはしないのだ。
会えばまた、この前の続きをすんなりと始めるに違いないのだから……。