かん子の連載

LGBTQ+の本棚から 第294回 LGBTQ+の本棚から 第279回 遠回りしたら僕から・14

トランスジェンダーの林ユウキさんからの寄稿を数回に分けてご紹介しています。
※この寄稿文はブクログには掲載しません

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胸オペが終わってパス度も上がって、自信もついた。 
ということで僕は歯科技工士の仕事探しをスタートした。
 職場に求める条件は、男性として働けるところ。そのためのカミングアウトは最低限の人間が望ましい!
とりあえずネット検索してみたものの、どこがいいのかさっぱりわからなかったので、こういう時は詳しい人に聞くのがいいと思って学校の先生に聞いてみた。 
そうすると、学校に来ている求人票を見せてもらえることになった。成り手も在学生も少ない学科なので、求人が余っているのだ。 
相談に乗ってもらいながら色々見た結果、2つの医院に候補を絞ることができ、見学にも行けることになった。 
1つ目は矯正に力を入れている医院で診療室も多く、従業員も多いところ。2つ目は昔から続く地域密着型の医院で、1人の先生で回せる小さめのところ。 2つとも家からは同じくらいの距離にある。
どちらも良いところだったけれど、2つ目の医院でのやりとりがよかったのでそこに決めた。
 面接の際のカミングアウトの場面でトランスジェンダーであることを伝えたところ、「可愛い格好とかしていいよ!」という言葉が返ってきたのだ。男性物のスーツで行ったので僕がMTFだと思ったのだと思う。逆なんですというと驚かれたから。 
そういう言葉がフランクな感じで出てきたのがすごく印象的で心地よく、この先生なら大丈夫かもしれないと思わされた。なのでその流れで男性として働きたい旨も伝えた。それももちろんOKで、割とあっさりと僕の働きたい職場の条件を満たしたところが見つかったのだった。
あっさりと決まったことには、医療系の職場であることが関係しているのかなと思う。学校も医療系だからか、最初に相談した時の対応が早かったし、理解があった。LGBTQについて知る機会が多くなるのだと思う。やはり基礎知識があるのとないのとでは雲泥の差があるのだ。このことを知っていたら、もっと早いうちからこの分野に進んでいたと思うくらいには。
 他にも、小さめの医院で従業員が全員女性というのも決め手になった。人が多いとどうしても否定的な人の出現率が高くなるから人数が少ないのはポイントが高い。
そして、人生の半分以上を女性として生きていたからか、僕は男性と関係を構築するのが苦手で、友だちも女の子しかいない。なので女性ばかりというのも馴染みやすそうに感じたのだった。僕の前任の方は男性なので、自分がそこに入っても問題なさそうだったし。 
こうして無事、院長先生にだけカミングアウトして、他の人には男性として通して働くことが決まった。
すぐに新しい人間関係にも馴染むことができた。
みんな僕がFTMだと気づいてるかもしれないけど、何も言われないし、多分みんな僕に必要以上の興味を持っていない。興味を持たれると色々追求されて、うまく立ち回ることができなくて、最終的にそのコミュニティを抜けることになることが多かった。だからこれはとても良いことだし、嬉しい。これからもこのままで過ごせていけたらと思うので、日々自分にできることをがんばっている。

2023年11月27日